次世代半導体・酸化ガリウムウエハの低コスト量産化に向け東北大学発スタートアップ:株式会社FOXを起業 ―低損失・高性能なパワーデバイスによる脱炭素社会実現へ貢献を目指す―(吉川PJ)

 カーボンニュートラル実現に向け、家電・電気自動車・産業用機械・再生可能エネルギー等の電力変換をおこなうパワーデバイス(※1)の省エネルギー化が必要となっています。β-Ga2O3は、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に比べてバンドギャップが広く、更に高性能でエネルギー損失の少ないパワーデバイスとして期待されています。加えてβ-Ga2O3はシリコン(Si)同様に融液成長(※2)が可能なため、理論的には低コストで低欠陥の単結晶基板(ウエハ)作製が可能です。しかしながら従来の結晶育成法では、高融点酸化物の融液を保持するルツボに貴金属であるイリジウム(Ir:約2.6万円/g@2024年8月相場)を用いており、定期的な改鋳も必要なことから、Ir由来のコストが半導体前工程の一部の薄膜製造を含むコストの6割以上を占め、β-Ga2O3デバイスの製造コストの低減が非常に困難でした。現状、β-Ga2O3基板は次世代パワー半導体の代表格のSiC基板よりも高価となり、β-Ga2O3の普及は進んでいません。

 この課題を解決すべく、東北大学発スタートアップ株式会社FOXを起業しました。マクニカ・インベストメント・パートナーズ、岩谷ベンチャーキャピタル、合同会社東北テックベンチャーズ等からの出資とNEDO DTSU事業の支援を受け、β-Ga2O3の低コストで低欠陥の大口径ウエハ製造技術を確立して量産することで、β-Ga2O3パワーデバイスの社会実装を促し、脱炭素社会の実現に大きく貢献することが期待されます。

※1 パワーデバイス
 直流を交流に変換するインバータ、交流を直流に変換するコンバータ、周波数変換などの機能を持つ電力変換器を構成する最も重要な半導体デバイスの総称です。電車や電気自動車、家電製品、照明器具、電磁調理器、コンピュータの電源部品など身近なさまざまな場面でパワー半導体が使用されています。パワー半導体とも呼ばれます。

※2 融液成長
 材料を融点まで加熱して溶かした後に冷却することで単結晶を作る方法です。SiやGaAs等の半導体、LiTaO3、LiNbO3等の圧電体、Ce:Lu2SiO5、Ce:Gd3(Al,Ga)5O12等のシンチレータなど、一般社会で使われている機能性単結晶の量産に最も多く用いられている結晶作製法の1つです。

関連資料
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