赤血球や血管が形成される前の幼若な胎児は、母体の赤血球から拡散される少量の酸素に依存しながら身体を大きくする必要があり、重篤な低酸素状態に陥っていると考えられていました。
東北大学大学院医学系研究科酸素医学分野・同大学未来科学技術共同研究センターの鈴木教郎教授らのグループは、これまでに、赤血球を増やす作用のあるホルモン「エリスロポエチン(※1)」が胎児期には神経系の細胞から分泌されることを発見しました(参考文献※2)。
今回、ヒトおよびマウスの細胞を用いて、発育途中の幼若な胎児は酸素運搬を担う赤血球が存在しないために低酸素状態に陥っており、その低酸素状態が神経系細胞を未熟な状態にとどめることによってエリスロポエチンの分泌を促すことを発見しました。エリスロポエチンのはたらきにより赤血球が増え、低酸素状態が解消されると、神経系細胞はエリスロポエチン分泌をやめて成熟します。この発見により、有害だとみなされていた低酸素状態が胎児の成長に活用されるという逆説的な現象が示されました。
本研究成果は2024年12月2日に学術誌Molecular and Cellular Biologyに掲載されました。
※1 エリスロポエチン
赤血球を増やすはたらきのあるホルモン。主に腎臓の間質線維芽細胞から分泌され、骨髄での赤血球の生産を促進させる。製剤化されたエリスロポエチンは、貧血の治療薬として優れた効果を発揮している。
※2 参考文献
タイトル:胎児期神経系細胞におけるエリスロポエチン産生は低酸素シグナルとヒストン脱アセチル化酵素によって細胞の未分化性にともなって制御される
著者:岩村悠真、中井琢、加藤幸一郎、石岡広崇、山本雅之、平野育生、鈴木教郎
掲載誌:Molecular and Cellular Biology
DOI:10.1080/10985549.2024.2428717
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