食事性蛋白質による胆汁酸シグナルの変化を発見 -腸細胞のFGF15/19産生に着目した食事のイノベーションへ-

小腸(回腸部)から分泌されるホルモンFGF15/19(注1)は、糖・脂質代謝を改善させる作用を持つホルモンで、肥満や2型糖尿病では血中 FGF15/19濃度が低下しがちになり、その改善には胃バイパス術に依らざるを得ないのが現状です。

東北大学未来科学技術共同研究センター野々垣勝則教授らは、乳清タンパク質のホエイプロテインを通常食に加えマウスに与えると、小腸(回腸部)の腸細胞で胆汁酸を排泄する輸送体OSTα/β(注2)の発現が低下し、FGF15の発現と分泌が増加し、肝臓の糖新生と胆汁酸の合成・分泌が抑制されることを見出しました。更に小腸でGLP-1(注3)とセロトニン(注4)合成が抑制され、血中セロトニンとインスリン濃度が低下することも見出しました。一方、大豆由来タンパク質β-conglycininを投与すると、ホエイプロテインのこれらの作用とは反対の作用が生じました。

このように食事で摂取する蛋白質の種類によって、生体内で代謝制御を司る腸―肝―膵ネットワークが異なる作動を起こすことが確認されました。同研究グループでの前回の発見(前回の発表はこちらから)と合わせると、適切な食事性蛋白質を摂取することで、胃バイパスに依らない肥満・2型糖尿病や脂肪肝等の新たな治療法への展開が期待されます。

本研究成果は「Frontiers in Endocrinology」に令和5年1月27日に掲載されました。

【用語説明】
(注1)FGF15/19:Fibroblast growth factor 15(マウス)/19(ヒト)で 小腸(主に回腸部)から分泌されるホルモン。
(注2)OSTα/β:Heteromeric organic solute transporterで腸細胞の細胞内の胆汁酸を排出させる機能を持つ胆汁酸輸送体。
(注3)GLP-1:Glucagon-like peptide-1;腸由来ホルモンで、食後に分泌され、グルコース依存性に膵臓からインスリン分泌を促すホルモン。
(注4)セロトニン:末梢由来と脳由来があり、末梢では主に腸から分泌されるホルモン。
(注5)FGF21:Fibroblast growth factor 21で 肝臓から分泌されるホルモン。

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