様々なタンパク質を検出できるRAPタグは植物細胞でも有効に機能する(加藤PJ)

筑波大学生命環境系/つくば機能植物イノベーション研究センター 三浦謙治教授、東北大学未来科学技術共同研究センター/大学院医学系研究科 加藤幸成教授らの研究グループは、動物細胞で作られる目的タンパク質に目印をつけるために開発されたRAPタグ(注1)が、植物細胞の作るタンパク質の検出にも有効であること、さらにRAPタグを認識する抗体(注2)であるPMab-2を植物で効率的に生産することを可能とし、タグを付けたタンパク質の精製に有用であることを明らかにしました。

生体内にある多種類のタンパク質の中から、目的タンパク質の機能・局在などを調べるためには、目的タンパク質に特異的な抗体が必要です。しかし、それが容易に入手できるとは限りません。そこで、遺伝子工学的手法によって、目的タンパク質に目印となるタグをつけて、生体内で発現させることで、他のタンパク質と区別することができます。しかしながら、植物で発現させた場合、タグ抗体が特異的に働かないなどの困難もあり、これまで実際に利用されているのは数種にとどまっていました。

本研究では、RAPタグを付与したタンパク質を植物体内にて発現させた場合、PMab-2抗体を用いて、特異的に目的のタンパク質を検出することが可能であるとともに、PMab-2抗体によるアフィニティークロマトグラフィー(注3)により、目的タンパク質を精製できることを明らかにしました。また、本研究グループが開発した「つくばシステム」を用いて、植物細胞にてRAPタグを認識するPMab-2抗体を大量に産出させることに成功しました。この植物由来PMab-2抗体は、簡便に高純度で精製することが可能で、CHO細胞(注4)由来PMab-2抗体と同様の抗体活性をもつことを示しました。

これらのことから、植物においてRAPタグが有効に機能すること、および、「つくばシステム」によりRAPタグを認識するPMab-2抗体を生産・精製することができることが分かり、植物におけるタグシステムの新たなレパートリーが追加されました。これにより、低価格で抗体を作製・精製するための基盤技術の構築、さらには植物バイオテクノロジー分野の発展にも寄与することが期待されます。

本研究の成果は、2020年9月10日付「Frontiers in Plant Science」で公開されました。

* 本研究は、科学研究費補助金(19H04637)、日本医療研究開発機構(AMED)・先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業(JP19am0401013)、AMED・創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS;JP19am0101078)、AMED・次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(JP19ae0101028)、T-PIRC遺伝子実験センター「形質転換植物デザイン研究拠点」の一部によって実施されました。

【用語解説】
(注1)RAPタグ
DMVNPGLEDRIEの12アミノ酸からなるペプチドタグ。ラットpodoplaninタンパク質に存在するアミノ酸配列で、PMab-2抗体によって検出可能 (Fujii et al., (2017) Monoclon. Antib. Immunodiagn. Immunother. 36, 68-71)。

(注2)抗体
免疫グロブリンというタンパク質。一般的な抗体は、2本のH鎖(重鎖:分子量の重い分子鎖)と2本のL鎖(軽鎖:分子量の軽い分子鎖)からなるタンパク質の複合体のヘテロ四量体(異なる4つのタンパク質からなる複合体)を形成する。植物には抗体を自ら作り出す仕組みはないが、マウスやヒトなどから単離した抗体遺伝子を導入することで、H鎖あるいはL鎖といったタンパク質が生産され、植物体内でのヘテロ四量体形成が可能。

(注3)アフィニティークロマトグラフィー
タンパク質同士の結合や核酸とタンパク質の特異的な結合など、アフィニティー(親和性)によって物質を分離する方法。本研究では、抗体とプロテインG(免疫グロブリンに結合するタンパク質)との結合を利用した。

(注4)CHO細胞
チャイニーズハムスター卵巣(Chinese Hamster Ovary)細胞。タンパク質の生成に適した動物細胞であり、バイオ医薬品や抗体生産などに用いられている。

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