蟹殻が半導体や蓄電池に利用できる可能性を発見 ─廃棄物のエレクトロニクス応用に期待─(橋田PJ)

バイオマス化合物であるキトサンはセルロースに次いで地球上での賦存量(ふぞんりょう)(注1)が多い天然の化合物であり、セルロースのOH基がNH基に置換しただけの酷似した分子構造を持っています。キトサンは蟹・海老や昆虫の甲殻類、烏賊の骨、カビ、キノコ等の菌類の細胞壁を構成するキチン(注2)から容易に生成されますが、大きな用途が見つかっておらず、廃棄物として扱われるのが現状です。

東北大学未来科学技術共同研究センターの福原幹夫学術研究員と橋田俊之特任教授、東京大学の磯貝明特別教授らの研究グループは共同で、ChNF組織を制御した厚さナノメートルサイズのシート材に半導体特性と蓄電特性が発現することを見出しました。シート材のI(電流)-V(電圧)カーブは、負電圧領域に顕著な負性抵抗が現れるn型半導体(注3)特性を示しました。また電子スピン共鳴法(注4)の測定から伝導電子はアミニル基(N●H)基の不対電子ラジカルであることを明らかにしました。

研究グループは、既に植物性ケナフを原料とするセルロースナノファイバーに同様の特性を発見しており、今回の動物性キトサンの結果と合わせると低廉で自然界に広く賦存するバイオ素材による半導体作製、さらには「ペーパーエレクトロニクス(注5)」の実用化が期待されます。

本研究成果は、2024年3月1日に米国物理学会誌AIP-Advancesにオンライン掲載されました。また本論文は、注目度の高い論文としてEditor’s pick に選定されました。

注1. 賦存量(ふぞんりょう):
全自然エネルギーから現在の技術水準では利用困難なものを除いたエネルギーの大きさ。

注2. キチン:
蟹や海老の外骨核に含まれているN-アセチルグルコサミンのポリマー。

注3. n型半導体:
負の電荷を持つ自由電子がキャリアとして移動することで電流が生じる半導体。例えば、4価のSiに微量の5価元素のPやAsを添加すると一つ余剰の電子が生じ色々な特性が発現する。

注4. 電子スピン共鳴法:
ラジカル(不対電子)を持つ試料に磁場中でマイクロ波放射し,マイクロ波とラジカルの間で起こるマイクロ波を吸収して励起する原理を利用してラジカルの種類や量を測定する手法。

注5. ペーパーエレクトロニクス:
セルロースやキトサンを基材として紙本来の特性を利用したエレクトロニクス。

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