研究プロジェクト教育型・学術型プロジェクト

材料系理論の枠組みの抜本的改善と応用、
及び企業・社会への啓発
Fundamental improvement in theoretical materials science and its applications, and enlightenment to companies and societies

プロジェクト期間2024年4月1日~2025年3月31日
川添 良幸 シニアリサーチフェロー 川添 良幸シニアリサーチフェロー Senior Research Fellow Yoshiyuki Kawazoe

研究の概要

電子多体系を単純化し過ぎ、単なる現象論に堕ちてしまった現在の「第一原理計算」を有用材料を予言出来る確実な「真の第一原理計算」に変革する学術研究を実施しています。基盤は30年以上をかけて開発している独自の第一原理計算法TOMBO(TOhoku Mixed-Basis Orbitals ab initio simulation package)であり、他ではできない材料系のエネルギーの絶対値算定や化学反応の時間発展をパラメータなしで高い信頼性を持って予言できます。

また、本学名誉教授の講演を中心とする100コマ以上の録画を蓄積した「伊達な大学院」等により民間企業・学生・社会一般の科学技術啓発活動を展開しています。

研究の特色

物性物理、理論化学、薬学、材料研究等で広く使われる様になった密度汎関数理論に基づく第一原理計算法は、市販のソフトウェアの使い易さから本質的な問題点を見抜けず、単なる実験値をパラメータを使って再現するに留まっているという状況に過ぎません。特に多数の数値計算結果を蓄積し機械学習によって有用材料を予測するというAI方策が多くみられますが、基盤的な部分の研究が致命的に不足しています。我々は抜本的な理論計算の進展を目指して独自の計算法を開発しています。特に他のソフトウェアでは系のエネルギーの相対値しか算定できませんが、TOMBOでは絶対値算定を可能としています。また、化学反応過程の追跡においては重要な励起状態を高精度で扱うことが出来る世界唯一のソフトウェアです。

期待される成果・展開先

60年前にコーン教授が提案した密度汎関数理論は、電 子多体系に対する変分を従来の波動関数ではなく密度に置き換えることによって劇的な計算量低減に成功しました。しかし、基底状態のみが対象であり、肝心な電子交換相関相互作用汎関数を一意的に決定できません。そのため、そのパラメータ化によって実験値を再現するような計算ばかりになってしまっているのが現状です。これではコーン教授は天国で泣いてしまいます。我々は、この現状を改善する努力をしています。既に、燃焼の基礎を理解するために、全く実験に合わせるためのパラメータなしに触媒下におけるメタン分子の分解過程での水素分子発生のシミュレーションに成功しました。現在はDNA組み換えの基本的要素の解明に取り組んでおり、バイオ系の問題理解の進展への寄与が期待されます。スーパーコンピュータの処理能力はムーアの法則に従って5年に10倍の進展を継続しており、今後は、セメント表面の水和反応の様な大きな原子数の系の取り扱いへと発展させて行く予定です。

参考文献
1. ”Non-Adiabatic Excited-State Time-Dependent GW (TDGW) Molecular Dynamics Simulation of Nickel-Atom Aided Photolysis of Methane to Produce a Hydrogen Molecule”, Nanomaterials, 2024, 1, 0.
https://doi.org/10.3390/nano1010000.
2. 日刊工業新聞2024年6月21日「第一原理計算に新手法ー東北大など電子励起状態に対応」

TOMBOのTDGW法を適用した現象論的なパラメータを全く使わず励起状態を正しく扱う分子動力学計算によるNi触媒下でのメタン分子からの水素分子分離過程の電荷密度分布時間変化。

TOMBOのTDGW法を適用した現象論的なパラメータを全く使わず励起状態を正しく扱う分子動力学計算によるNi触媒下でのメタン分子からの水素分子分離過程の電荷密度分布時間変化。

伊達な大学院のトップページと登録用2次元バーコード。ブレインナビオンとして現在5千名以上が登録。東北大学萩友会ホームページからリンク

伊達な大学院のトップページと登録用2次元バーコード。ブレインナビオンとして現在5千名以上が登録。東北大学萩友会ホームページからリンク

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